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『おおかみこどもの雨と雪』中の人は多分もっとしたたかですぜ。

 前作『サマーウォーズ』で一躍日本のトップアニメーターとして認知されるようになった細田守だが、この『おおかみこどもの雨と雪』もまた、7月から長期に至るまで上映され続けているということを鑑みれば、その評価が非常に高いということがうかがい知れる。主人公・花の愛した男が実は狼男で、彼との間に設けた子をシングルマザーとして田舎で育て上げるという趣旨は全作同様、田舎の人々の温かさという回帰的な羨望や、家族という社会における最小のコミュニティをモチーフに扱ったものだといえるだろう。私的には、映画を観始めて数十分で「これ賛否両論、どころかアンチと信者に極端に分かれそうだ」という感想を持った。それほどまでに、肯定要素と否定要素がこの作品には混在している。
 否定的な意見として、ディテールを盛り込むことによって起こる物語の破綻が挙げられる。奨学融資でバイトして苦学生するのは良いとして、クリーニング屋のバイトで仕送りなしで生活できるかどうか疑問であるし、信念持って勉強してるのに狼男という圧倒的マイノリティと避妊もせずに子供を作るし、ワープア街道まっしぐらなのに二人目までつくるし絶滅種の父親がゴミ収集車で片付けられるし引越し屋のトラックの運転手で長期間親子三人が暮らしていける貯金なんて残せるわけないし、休学した学校どうしたのか気になるし(休学中も学費かかるし、中退は奨学金一括返済ですよ?)予防接種とか人間でも犬でもどっちかでやっとかないとマジでプロプレムだし田舎の人々の描き方が紋切り型だしあんなでっかいボロ屋を一人でキレイにできるわけないし野菜作りを失敗しているのって絶対長期の出来事だからそのあいだ生活どうしてたのか疑問だし新しく始めたバイトが安すぎるし12年間で子供たちを「育て上げた」って言うには短期間すぎるし、後どうしようもなく宮崎あおいの声から「森」の香りがするなどなど、ケチをつけ始めたら際限なく出てきてしまう。ディテールによってリアリティが失われているのなら、それは肯定されるものではないし、そういう面ではこの物語は失敗している。だがそういった批判を踏まえた上でも、少し視点を変えれば逆方向には細田守の理想が、冒頭の質感を感じさせる花々のように咲き誇っていることを観客は知るだろう。
 主人公・花はひたすら受け入れ続けてきた。狼男という夫を、その血を受け継いだ子供たちを一人で育て上げるという道を、あらゆる困難を笑顔一つで受け入れた。そしてこの花の「受け入れる」という態度に、観客は細田守の人生観や世界観(正しい用法での)を垣間見ることができたのではないだろうか。社会にしろ自然にしろ、個人はその大きな渦にただ飲み込まれるしかない。しかし、そこで人が最初にして最後の強さを発揮できるとしたら、それは「受容」という強さではないだろうか。そして、父親が生前に言った「子供たちを自由に生きさせたい」ということの終着点に、雨は受け入れたいものを探し出し、雪は受け入れてくれるものと出会ったのであるならば、まさにこの父と母はその生き方と残した言葉によって子供たちを導いたのだといえる。
 終盤に、森に生きることを選んだ息子を花は「私はまだあなたに何もしてあげられていない……」と言って引き留めようとする。だが既に花は「受容」という、もっとも母として強い愛を子供達に与えていたのではなかっただろうか。この物語における愛とは、与えることではなく世界の受容の仕方だったはずであり、そして既に息子は母からそれを学んでいるのである。そこが人の世であろうと自然の中であろうと、その愛さえあれば、きっと子供達は母と同じく花の咲く丘で誰かと寄り添うことができるに違いないのだ。
 抵抗や変革を行わず、しかし決して諦めもしない。「受容」という静かな生のあり方を大自然を使い躍動的に描いた今作、アニメーションがどうしようもなく「絵を動かす」というメディアである以上、これまでのアニメは「動き」を魅せることに終始するしかなかったが、細田は「受容」からなる「佇まい」をアニメで魅せることに成功しているのである。この技法を以てしてこの作品が革命的であるという評価は頷けるものがある。ただ、二時間弱という尺の中、駆け足で物語を進める必要があったためか、出来事の「結果」ばかりが先立ちそこに「動機を持った人間」の、特に「大人」の不在を感じざるを得なかった。そこが今ひとつ作品を楽しむ上で壁になっていたことが残念だ。


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